嫉妬する女・・その1
嫉妬する女・・その1
真弓は、毎日がおもしろくなかった。
夫のこと、子供のこと、仕事のこと、更年期症状かし
らと思われる体の不調。自分の気持ちがどんどんすさん
でいくのを感じていた。
そして、増え続ける体重にいらいらしていた。
お腹のでっぱりよりも胃のまわりから背中にかけて肉の
つきかたのすごいこと、我ながら感心してしまう。みご
とにおばさん体形だ。体が重くなっていくごとに心も鈍
くなっていくような気がする。そして、不満のなかに他
人に対しての嫉妬やねたみがうずまいているのに驚かさ
れる。
若く見えるわね、美人ねと今でも結構言われる。でも
中年になるとお互いに思っていなくてもそんな言葉がす
らすらでてくることぐらい重々わかっている。内心では
どこにしわがあるか、しみがめだつわとか、鼻のまわり
の毛穴がめだつわねとか鋭く観察している。自分で、ま
だまだきれいだわと思う事ができれば気持ちも明るい。
でも、鏡をみれば、目のまわりがしょぼついていて年を
隠せないことを痛感していた。肌のはりが、二十歳にな
る娘の由里と哀しくなるほどちがう。顔のラインがでこ
ぼこになってくるのは、ふせぎようがない。大概の女は
他人の評価よりも数段自分を美しいと思っている。
真弓も、自分ではかなり自信を持っていただけに鏡に
うつる衰えはショックだった。仕方のないことと諦めれ
ばふっきれるのかもしれない。
(でも、まだ48、まだ48)
と真弓はつぶやく。
(もうと思ったらおしまいだわ)
ちょっとした事でもいらついてしまう。とくに中年の
おばさんに訳もなくいらつく。すさんだ、それでいて人
を皮肉っている目だ。
鏡の中に同じ目をみる。
パンツを試着した時のことだ。ちょっときついかしら
というと11号で入りませんか、13号着てみますかと
大きな声で言う。何て無神経な人なのと思いながら、そ
の場で言えない。あなた、失礼ね、大きな声でと言いた
いが、素材がいやだからととりつくろう。さらりと文句
を言えない自分にも腹がたつし、11号が入らない事も
腹がたつ。
とにかく、全てに腹がたつ毎日だ。腹をたてながら哀
しくてならない。そういう自分を理解してくれる人がい
ないことにまた哀しくてならなかった。
頭の中は涙モードでいっぱいだ。
哀しくて、いらいらしてすさんだ気持ちの最大の原因
は夫との関係だろう。
夫とうまくいっていない。結婚した時から、ごたご
たが続いている。一郎に言わせれば、真弓が一言も二言
も多いのが気にいらないのだそうだ。
「いいすぎなんだよ。いつも文句ばかり言いやがって。
うるさい。黙ってろ。お前の言い方はむかつくだよ」
そして飲みに出かけてしまう。その飲みに出かける先
が、真弓は気にいらない。女がべったりと寄りそうスナ
ックか、キャバクラに好んで行っているらしい。女達に
おだてられて、にたにたしている一郎の顔が浮かぶ。一
郎はセックスにたいして強い欲求がある。
結婚してからも風俗に通っていたのは知っていた。浮
気といってもほとんど水商売関係の女で長くは続いた事
はないので、半ば見て見ぬふりをしていた。というより
一郎は、女好きというDNAが強いのだと諦めにも似た
気持ちだった。でも、いい気持ちはしないし、嫉妬もあ
る。
別れたほうがどんなにか、気持ちが安定することだろ
うと思いながら別れられない。どういう訳か一郎を愛し
ているのだ。
48になっても憎たらしいと思いながら、愛してい
るという思いを打ち消すことができない。毎日、飲んで
遊んでくる。父親としてもふがいない。子供たちの教育
にはまるで関心がない。それどころか慎吾の成績があま
りよくないので、どうせいい大学には行けないだろうか
らそれなら働け、学費は出さないと言う。真弓が出すと
いうと俺のやりかたに逆らうのかと怒りだす。一郎は自
分の遊ぶお金が減るのがいやなのではないかと真弓は思
っている。子供のことより自分が大事なのだ。たまらず
文句をいう。そして喧嘩になるという悪循環だ。こんな
自分勝手な一郎のどこがいいのだろうと自問する。
時々、やさしい・・からだかろうか。
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